特別課題研究「スクール・セクハラ問題の総合的研究」

<研究趣旨と課題>

 スクール・セクシャル・ハラスメント(以下、SSH)は、セクシャル・ハラスメントの一種で、全学校種とそれに類似する一定の教育機関(各種学校、予備校、スポーツ教室など)において発生するセクシャル・ハラスメントをさす。セクシャル・ハラスメントは、主に権威・権力・管理的地位にある者とその下位に位置する者との間の権力的・利益的関係を媒介として発生するが、SSHの発生は、子ども達にとって一番安全を保障され、将来を担う世代に希望を与え、その能力の発達が保障されねばならない場が、子どもたにとって最も危険な場となることを意味する。物言えぬ子どもの問題は、「闇」に葬られやすい。文科省調査におけるSSH加害者として懲戒処分をされた教師は、年々増加傾向にある。被害は、学校や教師への信頼を破壊するばかりでなく、生涯にわたって心に傷を残すと指摘されている。大学におけるキャンパス・セクハラ(CSH)は、教師対学生の関係のみならず、教育実習先、アルバイト先などでも発生する。教育実習における学生被害の調査によれば、心身への打撃により実習継続が不可能になったケースや進路変更を余儀なくされるケースが相当数ある。教育実習はにおけるセクハラは、SSHCSHが交錯する領域であるという特殊な領域にあり、それへの対応は実習校確保という理解関係から、適切な対応なほとんどなされていない。また、男女雇用均等法によって事業主の義務とされるハラスメント防止とそれへの対応も、「教育の場」として特段に敏感でなければならない大学を含めた教育機関で、形式的整備の域を超えてはいない現状がある。

 SSHの発生に対しては、被害者への適切な支援と加害責任の明確化だけではなく、防止に向けた教育環境・職場環境の整備を含めた適切な防止策が必要である。しかしながら、先ごろ改訂された学校保健安全法においても、学校安全の基本でなければならないSSHへの対応にはまったく関心が寄せられていない。スポーツ部活関係では、体罰問題がようやく課題として表面化してきたが、SSHは問題の特殊性から顕在化することが少ない。

 こうした現状に対して、これを問題と意識する研究者や教師たちが個別の研究や防止にむけた実践を展開しているが、教育学全体の問題としての認識は高いとはいえない。

 以上のような問題意識から、子ども達(学生を含む)の安全と学びの保証を図るために、SSH問題の構造とその対応、防止のための環境整備の課題について、教育学的な解明を図ることが必要である。体罰問題と同様に深刻に潜在しながら、前者に比して教育的に語られることがまだまだ少ないこの問題に光をあてることが必要であろう。

SSH問題の解明と防止の課題は、ことがらの性格から、教育学、教育心理学、教育法、刑法、ジェンダー論、性教育、被害者ケア学、カウンセリングなど広い範囲に及んでいる。日本教育学会は、こうした広範囲の研究者の知見を募り、また、関係学会関係者の協力を得る分野横断的な研究活動を展開する場と最もふさわしい。 

 

<研究領域>

以上のような問題意識から、研究領域は、具体的に以下のように設定できる。(1)SSH の構造解明、(2)SSHの実態調査、(3)SSH防止・対応のための学校・教育行政(大学を含む)の対応調査、(4)SSH裁判事例判例研究、(5)SSH問題対応の国際的水準研究、(6)事業体におけるセクハラ防止・対応の法学的検討、(7)SSH被害者ケアリング・加害者対応。