特別課題研究・課題研究

特別課題研究

スクール・セクハラ問題の総合的研究

<趣旨>
 近年、教員の「わいせつ行為」に対する処分は厳格化される傾向にあるが、実習セクハラを含めたスクール・セクシュアル・ハラスメント(以下、スクール・セクハラ)については表面化することが少なく、件数や内容などの被害実態も分かっていない。スクール・セクハラへの適切な対応には、その実態の把握と処分基準の明確化、相談窓口の設置や専門機関との連携が必要である。と同時に、スクール・セクハラ防止のための教員研修が必要であることは言うまでもない。
 しかしながら、児童生徒を対象としたセクハラ調査は実施が困難であり、スクール・セクハラに対応しなければならない立場にある教育委員会においても、実態調査を実施している教育委員会は、神奈川県教育委員会など一部にとどまっている。このようなことを踏まえ、実態調査グループでは、学校教育の場で起こるスクール・セクハラのひとつである教育実習におけるセクシュアル・ハラスメント(以下、実習セクハラ)に焦点化し、教育委員会と実習生を対象に調査を行うこととした。
 本グループでは、都道府県・政令指定都市教育委員会を対象に「教育実習におけるセクシュアル・ハラスメント防止のための取り組みに関する調査」(2015年7月)、実習生対象に「実習生から見た教育実習でのハラスメントに関する調査」(2015年9月)の2調査を実施した。今回は、これらの調査結果について報告する。

課題研究

課題研究Ⅰ 「教育の政治的中立」と政治教育・主権者教育―18歳選挙権を踏まえて

<趣旨>
 選挙権年齢が18歳に引き下げられて初の国政選挙がこの7月に行われます。選挙年齢引き下げが決定された昨年以来、高校教育などにおいて政治教育・主権者教育をどう進めるかをめぐって、様ざまな議論が交わされています。文科省はこれまで高校生の政治的活動を禁止してきた「高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について」(1969年初中局長通知)を、昨年10月46年ぶりに改訂し、高校生の校外での政治的活動や18歳以上の生徒の選挙運動を認めるとしました。
 また新たな通知では「政治的教養の教育」として、「議会制民主主義など民主主義の意義、政策形成の仕組みや選挙の仕組みなどの政治や選挙の理解に加えて現実の具体的な政治的事象も取り扱い、・・・・具体的かつ実践的な指導を行うこと」が示されました。しかし他方で、「学校は、・・・・政治的中立性を確保することが求められるとともに、教員については・・・・公正中立な立場が求められており、・・・・法令に基づく制限などがあることに留意する」と「政治的中立」の強調も併せてなされています。「教育の政治的中立」をめぐっては戦後これまでにも様ざまな事象や論争が重ねられており、その恣意的運用が教室での教育実践などに不当な制限を与えかねないことへの批判も繰り返されてきました。
 しかしいずれにせよ、選挙権を持つ生徒が多数在籍するもとでの政治教育・主権者教育ということは、高校までの教育においては我が国で初めての経験であり、このようなもとで「教育の政治的中立」もまた、新たな検討が必要とされています。とりわけ選挙権を現に有する生徒が多数いる教室で「現実の具体的な政治的事象」を「具体的かつ実践的」に扱うことは、まったく新たなフェィズです。本課題研究では、このような状況を踏まえ、政治教育・主権者教育のあり方と「教育の政治的中立」についてあらためて問い直したいと思います。

課題研究Ⅱ 「インクルーシブ教育をめぐる包摂と排除」

<趣旨>
 障害者権利条約が2014年に批准され、障害者差別解消法が本年4月に施行されるなど、インクルーシブな社会をどのように構築するのかが日本社会の課題となっています。教育の場面においても、2012年に中教審報告「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」が出され、インクルーシブ教育へと学校教育を再構築することが提起されています。
 ところで、現在の特別支援教育については以下のような気がかりな統計データが公表されています。まず特別支援学校在籍者は1987年の9万6千人をピークに減少が続いていたものの、1997年度の8万6千人から再び増加に転じ、2014年度には13万5千人になっています。特別支援学級在籍者についても、1995年度の6万6千人から2010年には約2倍の13万5千人になり、2014年度には18万7千人にまで増加しています。
 さらに特別支援学校高等部への進学率をみると、全国平均では中卒者の1.7%なのに対して生活保護受給世帯に限ると4.9%にまで達しています。
 特別支援学校・特別支学級への在籍者の増加は、子どもたちが自身の持つニーズにあわせて適切な配慮を受ける環境が整備されてきた成果だと見なすべきなのでしょうか。もしくは普通学校・普通学級から排除される子どもが増加している憂慮すべき事態と見なすべきなのでしょうか。また、生活保護世帯において特別支援学校への進学率が高い事実は、生活保護世帯の子どもたちの発達上の課題を抱えやすい環境にあり、そのような状況に対して子ども達の教育を受ける権利を細やかに保障し得た成果と理解すべきなのでしょうか。または生活保護世帯の子どもの抱える困難が「障害」と見なされて普通学校から排除されているという問題だと捉えるべきなのでしょうか。
 仮に、これらのデータから近年の学校における排除性の強化を読み取った場合、インクルーシブ教育への再編は、「障害者」を含む多様な子どもたちが普通学校・普通学級に包摂されることを可能にするのでしょうか。或いはインクルーシブ教育もまた、学校における新たな排除の装置として機能してしまうことになるのでしょうか。
 以上のような問題を本課題研究を通して明らかにしてみたいと思います。

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