シンポジウム

シンポジウムⅠ 「育成すべき資質・能力」と「アクティブ・ラーニング」をめぐって―次期学習指導要領改訂に向けて―

趣旨

 次期学習指導要領の改訂作業が進行している。その中で、「知識基盤社会」への移行に伴って、
1)今までの教育内容重視(コンテンツ・ベイス)の教育から資質能力重視(コンピテンシー・ベイス)の教育への転換
2)主体的・協働的な学習(アクティブ・ラーニング)の推進
が謳われている。この大きな転換は、国際競争の中で生き残るためという産業界からの要請という側面をもちつつも、一方で我が国の教育実践の歴史と伝統の中で培われてきた良質な実践が、ようやく文部科学省レベルで認知されてきつつあると捉えることもできる。
 このシンポジウムでは、こうした問題意識の下、次期学習指導要領の改訂を今までの教育実践や教育学研究の蓄積を踏まえてどのように位置づけ、どのように捉え、これからの学校教育の変化に教育学としてどう対応していくのかを検討する。「総合的な学習の時間」が、その導入期において多くの誤解や混乱、それに伴う実践の質の低迷を招いたことを踏まえ、学校教育の抜本的な変化を見据えて、教育現場にも通用し、なおかつ広い視野を持った言説を紡ぎだすことが、教育学に求められていると考える。
 パネリストには、学習論やカリキュラム論を研究してこられた方に加え、学習指導要領改訂の作業に関わる教育課程企画特別部会委員の方にも加わっていただき、多角的かつ批判的に検討していきたい。

報告者(敬称略)

奈須 正裕(上智大学、教育心理学;教育課程企画特別部会委員)
*「コンピテンシー・ベイス」の教育が求められる意義を、教育実践の事実に即して語っていただく。

池野 範男(広島大学、社会科教育・シティズンシップ教育;教育課程企画特別部会委員)
*社会科を中心に、具体的に新学習指導要領改訂の意義と方向性を語っていただく。

松下 佳代(京都大学、教育方法学・学習論)
*学習論の観点から、アクティブ・ラーニングの意義と課題を語っていただく。

小玉 重夫(東京大学、教育人間学・シティズンシップ教育)
*教育の公共性研究の立場から、今回の改革を批判的に検討していただく。

指定討論者

浅沼 茂(東京学芸大学、教育学・カリキュラム研究)
*カリキュラム研究の立場から、総括的なコメントをいただく。

司会

守屋 淳(北海道大学、教育心理学・現象学的教育実践研究)
澤田 稔(上智大学、カリキュラム・教育方法論)

シンポジウムⅡ 新自由主義国家による地域再編と教育

趣旨

 この20~30年間は日本の「戦後体制」が大きく改変されてきた時期にあたる。高度経済成長期に確立した「国家―企業社会・市民社会―家族」の相互前提的な関連はグローバリゼーションと新自由主義の下で劇的に変容した。と同時に、それらの新たな再構造化を図る国家戦略が矢継ぎ早に出されてきた。教育もこうした再編戦略の一環に組み込まれてきたのがこの四半世紀であった。
 このような時代の教育改革に向き合うためには、教育学の側にも新たな社会構想に関する座標軸を再構築することが求められる。それは従来の教育学の諸前提を問い直す作業をも伴うことになるであろう。
 このような課題意識に基づいて、ここでは現代国家の再編戦略の具体的な現象形態として、新自由主義国家による地域再編に焦点を合わせる。現代の地域再編は、地域の自立性を標榜しつつも、教育・福祉等の生活保障に関わる責任を地域に転嫁することにより、従来の垂直的な再分配機能を担う福祉国家からの脱却を図るものである。同時に、この再編は、財政問題に留まらず、自治体経営を主導する首長部局による教育政策への関与の増大など、教育制度の改変を伴いつつ進展している。「選択と集中」に枠づけられた「地方創生」は、以上のような転換をさらに加速するように思われる。学校統廃合(地域キャンパス校制度など)や震災からの復興過程における地域再編・教育再編は、以上の傾向の具体的な現象形態と言える。
 本シンポジウムでは、このような地域教育経営の再編実態を踏まえつつ、「新自由主義国家段階」において教育学に求められる社会構想や理論的枠組みをめぐる今後の検討課題について探究することを意図している。

報告者(敬称略)

岡田 知弘(京都大学大学院経済学研究科・地域経済学)
*新自由主義国家による地域再編の本質と新たな社会構想についてご教示いただきたい。

篠原 岳司(北海道大学大学院教育学研究院・教育行政学)
*北海道の地域キャンパス校を事例に、現段階の高校統廃合問題が提起する理論的課題について問題提起をいただく。

佐藤 修司(秋田大学教育学部・教育行政学)
*東日本大震災の被災地の復興過程で生じた教育再編が提起する理論的課題について問題提起をいただく。

指定討論者

山下 晃一(神戸大学大学院人間発達環境学研究科・教育制度論)
*新自由主義国家段階における教育再編に対峙するための教育学研究の課題について、報告を踏まえつつ論点開示をしていただきたい。

司会

宮崎 隆志(北海道大学)
荻原 克男(北海学園大学)

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