開催概要

シンポジウム

シンポジウムⅠ(公開・国際シンポジウム)
“American Educational Landscape and Emerging Resistance”

アメリカ合衆国からDr. Peter TaubmanとDr. Barbara Madeloni の二人のゲストを招き、スタンダードとアカウンタビリティを軸にした教育改革がアメリカの公教育をどのように変えてきたか、特に、NCLB法 (No Child Left Behind Act, 2002) 以降の「スタンダードとアカウンタビリティ」の新段階と、さらに、その中で、学力テスト拒否(Opt-out)運動やチャータースクールの増加に歯止めをかける運動、そして、教員組合改革など、親や教師の運動がどのように展開しているのか、報告をしていただく。

アメリカでもグローバル社会を生き抜くための「新たな資質や能力」=21世紀型学力についての議論がされており、教師教育も大きく変わろうとしている中、共通の問題意識をもって、アメリカと日本で進行している「渦中」の問題について議論ができることを期待している。

トランプ政権のベッツィ・デボス教育長官はチャータースクール推進に多大の資金を提供してきた富豪である。NCLB法のもとで達成度が低いとされた学校のリストラが行われてきたが、個々の学校ではなく、公教育の「失敗」を根拠にまさに公教育全体のリストラがおこなわれるのではないかと危惧される状況のもと、日本とアメリカにおける現状と課題を共有し、議論を深めたい。

【報告者】
Peter Taubman
ニューヨーク市立大学ブルックリン校教育学部教授。専門はカリキュラム論。
アメリカにおける新自由主義教育改革の全体像と、教育界がなぜその拡大を許したのかを論じたTeaching by Numbers: Deconstructing the Discourse of Standards and Accountability in Education (Routledge, 2009)は、その最も先鋭的な批判として高い評価を受けている。教育学者らによる社会運動ネットワークであるreClaiming the Conversation on Educationの創始者であり、現在はTeaching by Numbersの続編に取り組んでいる。アメリカで初めてカリキュラム論にフーコーの理論を取り入れたことでも知られている。

Barbara Madeloni
小学校から大学まで計11万人の教員を擁するマサチューセッツ州教員組合委員長。
心理学で博士号をとり、心理療法士、高校教師、大学教員という異色の経歴を経て現職に至る。前職はマサチューセッツ州立大学アマースト校教育学部中等教育教員養成プログラムのディレクターで、ピアソンによる教員パフォーマンステストの導入に反対して解雇され、組合委員長に立候補。組合を内部から改革することで新自由主義教育改革に抵抗してきた。企業権益の公教育に対する悪影響や、新自由主義と人種差別の関係、抵抗に必要とされる社会運動の在り方等について執筆している。

シンポジウムⅡ
教育政策のグローバライゼーションのもとにおける「比較」の新しい意味

上記の国際シンポジウムⅠをふまえつつ、20世紀末から特に顕著な形で展開されているグローバライゼーションのもとでの教育の国際比較の意義を検討する。

PISAに典型的にみられるように、「学力」を世界共通の基準で測定し、評価し、比較することが、各国の教育政策に大きな影響を与えている。「21世紀型学力」が論じられ、グローバルな学力競争が展開する中で、収集された膨大なデータをいかに読み解き活用するかが各国の研究者に求められもしている。しかし、このようなグローバライゼーションに対する各国の対応は必ずしも一様ではない。

こうした「学力」競争の一方で、子どもの貧困という問題も、まさにグローバルな課題として立ち現われている。ここでは、子どもたちの基本的な人権、特に学習の権利を保障することが、個々の国のレベルを超えた国際的な協力の課題となる。

本シンポジウムでは、教育社会学、教育行政学、教育法学等のさまざまなディシプリンから問題提起をいただいて、グローバライゼーションのもとでの教育の国際比較の意味や意義について議論をしたい。議論の焦点は、グローバライゼーションのもとでの「平準化」と「差異化」の問題であり、「普遍性」と「個別性」の問題であるとも言えよう。

ディシプリンだけでなく、地域的多様性も意識して、プログラムを構成していく予定である。

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