Conference Overview 開催概要

1.大会校の挨拶

日本教育学会第81回大会は、広島大学を大会開催校として、2022年8月24日(水)、一日空けて26日(金)、27日(土)にハイブリッド方式(オンラインと現地会場)で開催します。

広島大学が大会開催校となるのは今大会で5回目です(第10回大会:1951年、第21回大会:1962年、第33回大会:1974年、第69回大会:2010年)。前回から12年を経ての開催になりますが、この間、大学改革の進展に伴い、教育学関係の研究科の姿も変わりました。2016年度に教職大学院の開設、2020年度に教育学研究科から人間社会科学研究科への統合・再編(「教育科学専攻」(教育学プログラム、教師教育デザイン学プログラム、日本語教育学プログラム、国際教育開発プログラム)、「教職開発専攻(教職大学院)」、など)を行いました。初等・中等の教員養成をしっかりと行いながら研究者・教師教育者等の養成を展開し、相互にこの2つが刺激し合いながら研究・教育の活動のエネルギーを得ていくという広島大学の特徴を生かした新たな道を歩もうとしております。

開催方法ですが、新型コロナウイルス感染症の影響により、第79回大会、第80回大会と2年連続でオンライン開催が続きました。それゆえ、今大会こそは現地会場に参加者をお迎えし、対面での活発な研究交流を行っていただきたいという気持ちでおります。しかしその一方で、感染再拡大の心配があり、見通しが立たない状況にあります。

そこで、通常の日程・開催方式とは異なりますが、一日目(8月24日)はオンライン(リアルタイム双方向型)のみで「自由研究発表」(一般研究発表とテーマ別研究発表)と「ラウンドテーブル」を開催します。そして次の日(25日)に現地(東広島)への移動日を設けて、二日目(26日)と三日目(27日)は現地会場(対面)とオンライン(ビデオ会議システム)により、「課題研究」「シンポジウム」「総会」を開催します。「シンポジウム」のテーマは、二日目に〈学問研究の基盤としての知の創造と蓄積―教育学研究のこれからを考える―〉、三日目に〈教科教育のカリキュラムポリティクス〉を予定しています。いささか変則的ではありますが、ご理解とご協力をお願いいたします。

なお、研究発表は、前大会と同様に、個人発表、共同発表あわせて、ひとり一本とします。ただし、個人発表をする会員でも、口頭発表者(プログラムで○の付く者)にならない場合は共同発表にも申し込むことは可能です。ラウンドテーブルはこの限りではありません(ラウンドテーブルと研究発表の両方とも発表申し込みをすることは可能です)。

 以下、現時点での大会準備状況をお知らせいたします。今後の感染状況によって開催方法などの変更が生じる可能性もありますので、より詳細な内容につきましては、次号にてご案内いたします。

初めてのハイブリッド方式ということで不慣れなことが多く、皆様にご心配をおかけすることもあるかと存じますが、充実した大会になりますよう、実行委員会一同、最善を尽くす所存です。皆さまのご参加を心よりお待ちしております。

日本教育学会第81回大会 大会実行委員長 曽余田 浩史(広島大学)

2.開催日

2022年8月24日(水)、26日(金)、27日(土)

3.開催方法

対面とオンラインによるハイブリッド方式

<対面会場> 広島大学教育学部(東広島キャンパス)
住所広島県東広島市鏡山1-1-1
【バス】「JR西条」駅あるいは「JR八本松」駅、「JR東広島」駅から
広島大学行き乗車→「広島大学中央口」下車、徒歩3分
(乗車時間約15分、料金300円程度)
【タクシー】料金は「JR西条」「JR八本松」「JR東広島」のいずれからでも2,000円程度

*詳細は、広島大学ホームページ・交通アクセスをご覧下さい。

https://www.hiroshima-u.ac.jp/access

*宿泊は、東広島市内および広島市内のホテルを各自ご手配くださいますようお願いします。

<オンライン会場> 各部会のオンライン参加情報は大会参加申込者に8月19日(金)にご案内いたします

4.日程

5.大会までのスケジュール

自由研究発表(一般研究発表・テーマ型研究発表)・ラウンドテーブルの申込開始4月11日(月)(大会HPより申込)
自由研究発表(一般研究発表・テーマ型研究発表)の申込締切5月15日(日)
ラウンドテーブルの申込締切
『大会プログラム』の閲覧開始7月9日(土)
大会参加申込開始7月9日(土)
公開シンポジウム参加申込開始7月9日(土)
『発表要旨集録』掲載原稿の提出期限7月23日(土)(大会HPより提出)
大会参加申込締切8月15日(月)
公開シンポジウム参加申込終了8月15日(月)
オンライン大会会場へのパスワード送付(大会参加申込者のみ)8月19日(金)
『発表要旨集録』閲覧開始
(大会参加申込者のみ)
8月19日(金)
(オンライン大会会場より閲覧)

6.大会参加費

一般会員2,000円
学生会員1,000円
臨時一般会員2,000円
臨時学生会員1,000円

※公開シンポジウムⅠ・Ⅱのみの参加は参加費無料

※公開シンポジウムのみへの参加希望者は、2022年7月9日以降に専用申込ページより参加登録をしていただきます

7.自由研究発表(一般研究発表およびテーマ型研究発表)

(1)分科会種別と趣旨

会員による研究発表の場として、例年の大会同様、「A 一般研究発表」と「B テーマ型研究発表」を設定します。いずれについても、研究発表を希望する会員は自由に応募できます。「A 一般研究発表」では、研究領域別の分科会を編成します。「B テーマ型研究発表」では、様々な研究課題について焦点化された特定のテーマを設定し、分科会を編成します。

(2)開催予定分科会

下記の分科会の開催を予定しています。ただし、研究発表の応募状況によっては、分科会の名称変更や再編を行うことがありますので、あらかじめご承知おき下さい。

一般研究発表

A− 1  教育理論・思想・哲学
A− 2  教育史
A− 3  学校制度・経営
A− 4  教育行財政・教育法
A− 5  比較・国際教育
A− 6  教育方法・教育課程
A− 7  生活指導
A− 8  教科教育
A− 9  発達と教育
A− 10 技術・職業教育
A− 11 幼児教育・保育
A− 12 初等・中等教育
A− 13 高等教育・中等後教育
A− 14 教師教育
A− 15 社会教育・生涯学習
A− 16 教育心理学
A− 17 カウンセリング・教育相談
A− 18 特別支援教育・特別ニーズ教育
A− 19 図書館・教育情報学

テーマ型研究発表

B− 1  市民性教育の課題
B− 2  学校のリアリティと教育改革の課題
B− 3  世界の教育改革動向
B− 4  若者の移行過程変容と学校
B− 5  ジェンダーと教育
B− 6  道徳教育の改革動向
B− 7  教員政策
B− 8  戦後教育史の諸問題
B− 9  教育学の問い直し
B− 10 子ども問題と教育・福祉
B− 11 厄災と教育学研究
B− 12 教職課程の評価
B− 13 Educational Issues from Global Perspectives (English Session)

*B-12は公募により新設されたテーマです。 

(3)発表申込み

研究発表をご希望の方は、本大会HPの発表申込ページより、必要事項をすべて書き込んでください。受付開始は4月11日(月)で、締切は5月15日(日)です。申込みはすべてウェブサイト上で行います。申込みいただきますと、自動的に受領確認メールがすぐに送信されます。確認メールが届かない場合は、下記メールアドレスにご連絡ください。

メールアドレス  : jera2022hiroshima@gmail.com

発表申込の詳細は、発表申込ページをご参照ください。

研究発表は、原則として、個人発表、共同発表あわせて、ひとり一本とします。ただし、個人発表をする者でも、口頭発表者(プログラムで○の付く者)にならない場合は共同発表にも申し込むことは可能です。ラウンドテーブルはこの限りではありません(ラウンドテーブルと研究発表の両方とも発表申し込みをすることは可能です)。

発表希望分科会は、「A 一般研究発表」「B テーマ型研究発表」合わせて第3希望までお選びください。ご発表のテーマや応募状況によっては「A 一般研究発表」と「B テーマ型研究発表」の間で移動をお願いすることがあります。

発表時間帯は実行委員会で決定させていただきます。発表の時間帯を特定してお申し込みいただくことはできませんので、あらかじめご承知おきください。

(4)発表資格

研究を発表することができるのは、①本学会の会員で、5月15日以前に2021年度までの会費を納入済みの会員、または②5月15日までに2022年度の入会申込み手続きをとり、2022年度会費を前納した方、のいずれかに限ります。

(5)発表時間

個人研究発表 発表時間25分+質疑5分

共同研究発表 発表時間50分+質疑10分

*共同研究であっても口頭発表者が1名の場合の発表時間は、個人研究発表と同じです。

(6)発表要旨(『発表要旨集録』の原稿)の提出

発表を申し込んだ方は、研究発表の「原稿作成要領」(大会ウェブサイトに掲出)にしたがって発表要旨(『発表要旨集録』の原稿:PDF2頁分)をWeb登録にてご提出(アップロード)ください。分量オーバーの場合、3頁目以降は掲載されませんので、ご注意ください。提出期間は、7月1日(金)から7月23日(土)までです。締切厳守でお願いします。

*『発表要旨集録』に掲載された内容は、科学技術振興機構(JST)の研究情報データベース「J-STAGE」において公開されます。

8.ラウンドテーブル

会員の創意で自主的に企画される研究交流・意見交換の機会です。

(1)申込み方法

開催希望の方は、本大会HPの発表申込ページより、必要事項をすべて書き込んでください。受付開始は4月11日(月)で、締切は5月15日(日)です。申込みはすべてウェブサイト上で行います。申込みいただきますと、自動的に受領確認メールがすぐに送信されます。確認メールが届かない場合は、下記メールアドレスにご連絡ください。

メールアドレス  : jera2022hiroshima@gmail.com

ラウンドテーブル申込の詳細は、発表申込ページをご参照ください。

(2)企画者・報告者等の資格

企画者・報告者は、①本学会の会員で、5月15日以前に2021年度までの会費を納入済みの会員、または②5月15日までに2022年度の入会申込み手続きをとり、2022年度会費を前納した方、のいずれかに限ります。非会員が報告者(提案者)となることは可としますが、報告者(提案者)の半数は会員としてください。

(3)発表要旨(『発表要旨集録』の原稿)の提出

企画を申し込んだ方は、ラウンドテーブルの「原稿作成要領」(大会ウェブサイトに掲出)にしたがって発表要旨(『発表要旨集録』の原稿:PDF2頁分)をWeb登録にてご提出(アップロード)ください。なお、報告者ごとに発表要旨原稿を作成するのではなく、一つのラウンドテーブルにつき2頁にて原稿を作成ください。分量オーバーの場合、3頁目以降は掲載されませんので、ご注意ください。提出期間は、7月1日(金)から7月23日(土)までです。締切厳守でお願いします。

*『発表要旨集録』に掲載された内容は、科学技術振興機構(JST)の研究情報データベース「J-STAGE」において公開されます。

9.課題研究

(1)課題研究Ⅰ

「知の恣意性を問う──市民の知とは何か」

【登壇者】 小澤浩明(東洋大学)
     高山敬太(京都大学)
     古川雄嗣(北海道教育大学旭川校)
     渡邉雅子(名古屋大学)

【司 会】 生澤繁樹(名古屋大学、日本教育学会研究推進委員会委員)
     知念 渉(神田外語大学、日本教育学会研究推進委員会委員)

【企画趣旨】
 教育として教え、学ぶことがらがいったい誰の知であるのかといった知の恣意性をめぐる問題は、たとえば「文化的恣意」(P・ブルデュー)、「選択的伝統」(R・ウィリアムズ)、「オフィシャルノレッジ」(M・W・アップル)への批判など、さまざまな角度から論じられてきた問題でもある。ここでいう知の恣意性の問題は、さまざまな権力関係の網の目のなかで構成され、諸々の力学や支配的言説の影響のもとに編まれている教科書やカリキュラムの内容の正統性を問いなおすという課題だけにはとどまらない。コンピテンスや能力主義と一体となった新たな知のありよう、あるいは、そうした教育を標準的なものとして発信し教育改革の動向に影響を与えつづけている教育政策や学識、また、そうした世界や社会のなかで普及している実践と研究をめぐる知のありようなど、さまざまな射程を含む問題でもある。知の恣意性への問いは、個々のローカルな現場のみにとどまらず、ナショナルな位相において、さらにはグローバルな位相で進展する知をかたちづくってきた(いる)政治や経済や文化の配置やその組み換えを批判的に考えることとも深くつながっている。このような知の恣意性を私たちはいかにして問いなおすことができるだろうか。また、知の恣意性とともに知そのものに対する不信や知の軽視もまた生じている現代において、知の恣意性を問いなおすとはどういうことなのだろうか。
 本課題研究では、こうした知の恣意性を批判的に問いなおすだけでなく、さらに、教育(学)のなかでいかに知を産み出していくか、というところにまで踏み込み、この問題を考えてみたい。「知」がいったい誰のものであり、誰のためのものとなっているか、という問いかけは、こうした「知」の構成に誰の声や視点が反映され、また誰が排除されているのかを批判的に吟味することを強く求めるだけではない。それはまた、そうした反省の後に、あるいはその先に、いかなる知を、いかにして産み出していくのかという「知識産出」への新たな問いを抜きにしては語れない課題でもある。それは、誰が「市民」から締め出されてきた(いる)のかということも含めて、「知」がいかにして「市民の知」となりうるのか、という知識の構成への新たな参加を考えなおしていく、すぐれて実践的な問いでもある。「市民の知とは何か」という問題について、あるいはそうした問いにまで波及することを念頭に置きながら、教育の営みや教育学に何が求められるかということについて積極的な提言をおこなうことができればと考えている。

(2)課題研究Ⅱ

「SDGsと教育―市民の連帯に向けて」

【登壇者】 榎井縁(大阪大学)
     鬼頭秀一(東京大学名誉教授)
     多賀太(関西大学)
     肥下彰男(西成高校)

【司 会】 小野文生(同志社大学、日本教育学会研究推進委員会委員)
     北山夕華(大阪大学、日本教育学会研究推進委員会委員)

【企画趣旨】
 2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中核要素であるSDGs(Sustainable Development Goals: 持続的な開発目標)は、貧困と飢餓の根絶、質の高い教育の保障、ジェンダーの平等、地球と天然資源の保護、平和で公正な社会の構築にかかわる17の目標と169のターゲットを掲げている。これを受け、文部科学省発行の『持続可能な開発のための教育(ESD)推進の手引き』の令和3年5月改訂版では、SDGsを新学習指導要領の内容と関連づける必要性が明示された。それ以来、学校では、総合的な学習(探究)の時間等における「主体的・対話的で深い学び」を活用したSDGsの教育実践が蓄積されつつある。こうした取り組みは、学校だけではなく企業にも広がりをみせており、企業と連携して教育実践を展開している学校も少なくない。
 たしかに、SDGsの教育実践は、より公正な社会をめざして民主主義や人権、統治の既存のあり方を問い直す土台を子どもたちに涵養することが主眼に置かれている。だが、その一方で、限られた授業時間のなかで比較的取り組みやすい目標やターゲットを一つだけ取り上げ、その解決策を提案しようとすることが、かえって別の目標やターゲットにかかわる不利益や被害を生み出したりそれらを覆い隠したりしかねないというケースも少なからず見られる。たとえば、環境保護のためにプラスチック製品の代替品を用いようとする時、その代替品が誰によってどのように作られ流通しているかに目を向けなければ、グローバルな搾取構造やそれが内包する貧困や不平等の存在に気づかないばかりか、それらに加担してしまう恐れもあるだろう。
SDGsの17の目標と169のターゲットは、実際には、それぞれ密接に関連し合っており、影響を与え合っている。そうした関連性や影響関係をまなざし、吟味し、複雑に絡み合った社会課題を丁寧に解きほぐしていくような包括的なものの見方や考え方を涵養するには、どうしたらよいのだろうか。
 また、SDGsは、特に社会的に脆弱な人々に注目し、「誰も取り残さない」というスローガンのもと、人々の連帯を促し、持続可能な多様性と包括性のある社会の実現をめざしている。人権の尊重と保障の観点から、貧困、ジェンダーや障害、エスニシティにかかわらず質の高い教育を保障するためには、何より市民の連帯が不可欠であるが、そうした連帯の醸成に際しては、構造的な差別や社会的・政治的分断がしばしば障壁となってきた。市民の連帯を阻むようなものの見方や考え方、慣習や習慣などの日常的実践を乗り越えるためには、どのような工夫やアプローチが必要であろうか。
 本課題研究では、SDGsを、持続可能で公正な社会の実現に向けて市民の連帯を実質的に促すような教育のあり方について考えるための出発点ととらえる。そして、長年、外国にルーツのある子どもの支援に携わってきた榎井縁氏、学際的な環境倫理の研究を牽引してきた鬼頭秀一氏、男性性研究の視点からジェンダーと教育の課題を論じてきた多賀太氏、大阪の公立高校で「反貧困学習」など生徒のエンパワメントに取り組んできた肥下彰男氏の知見と経験に学びつつ、フロアの参加者とともにSDGsの教育実践に関する具体的な提言を探りたい。

(3)課題研究Ⅲ

「国際知としての教育学研究を創る―若手教育学研究者の育成と国際ネットワーキング―」

【登壇者】 荻巣崇世(上智大学)
     櫻井勇介(広島大学)・嶋内佐絵(東京都立大学)
     Jisun Jung[丁智善](香港大学)
     劉靖(東北大学)

【指定討論者】 高山敬太(京都大学)
       Jeremy Breaden(モナシュ大学)

【司 会】 米澤彰純(東北大学、日本教育学会国際交流委員会委員)
     北村友人(東京大学、日本教育学会国際交流委員会委員)

【企画趣旨】  
 教育学研究を国際知として発展させるには、世界的な舞台で知的創出を担う次世代・若手教育研究者の育成・活躍支援が欠かせない。この目的のために、日本教育学会をはじめとする日本の教育関連の諸学会やネットワークは、どのような役割を果たせるだろうか。また、各国・地域の教育学会や国際学術コミュニティをどのように活用し、また、どのような連携・協力をはかっていくことが望まれるのだろうか。
 本課題研究では、欧州・北米・アジアで国際的な教育学研究コミュニティに意欲的に参画し、そのネットワークを活かしながら国際的な研究貢献を果たしてきた登壇者より、それぞれの立場から、日本の意欲ある次世代・若手研究者が今後生涯を通じて国際知としての教育学研究の創出に貢献していくためには、今、何をして、どのような知識・スキルやネットワークを獲得すればよいのかを、自らの経験や、同世代・次世代の教育学研究者との関わりの中で思うことを中心として具体的に議論を展開していただく。
 日本の教育学を含む人文・社会科学の歴史は長い。また、特に教育学研究は、日本の近現代の教育や市民の形成に深く関わってきたことから、国語である日本語での研究蓄積、ネットワークと深く関わって形成されてきた。このことは、例えば教員養成や高等教育分野を含めた様々な教育実践の場で高度な日本語能力が求められ、また、国際的にも日本の教育及びこれに関する研究に精通していることが強みとして認識されることが多い。
 他方で、世界から多様な留学生が流入し、地域内・地域間における学生や研究者の国際移動が日常化している米州、欧州、オセアニアや、これらへの留学経験者が教育学の研究・実践のコミュニティをリードしているアジア・アフリカ諸国においては、英語を世界共通語とする国際的に開かれた研究コミュニティにおいて、いかに国際知の創出に貢献し、インパクトを与えるかが教育学研究の共通目標となり、そのための国際競争・協力が日々営まれている。
 欧米を中心として世界最先端の研究成果や方法論を取り入れ、キャッチアップを図るだけでは国際知としての貢献に結びつけることは難しい。他方で、教育実践の場は日本語を含む多様な言語・文化を基盤にしており、教育学研究はこうした実践やフィールドへの関わりに依拠してこそ新たな知が創出され、発展するという性格を本質的に内包している。
 経路依存を含めた内発的な知の創出は、日本、そして世界の教育学研究の発展の源泉であり、それをいかに次世代の研究者が自らの糧として活用し、キャリアを切り開いていくことができるか、また日本教育学会をはじめとする教育関連の諸学会が、これをいかに支援していけるのかを対話を通じて解明することが、本課題研究の到達目標である。
 本課題研究は、科研19H01621の成果です。 

Thematic Panel Session 3

Creating Educational Research as International Knowledge
Fostering early career educational researchers through the international networking

13:00-16:00 (JST), Sat 27, August 2022

In order to develop educationall research as international knowledge, it is essential to nurture and support the activities of the next generation and early career educational researchers who are responsible for global knowledge creation. What role can the Japan Educational Research Association (JERA) and other Japanese educational associations and networks play in achieving this goal? How can we make use of the educational societies and international academic communities in each country and region, and what kind of partnerships and cooperation are desirable?

In this panel session, the speakers, who have been actively engaged in international education research communities in Europe, North America, and Asia, and have contributed to international research by making use of these networks, will discuss from their own perspectives how to help Japan’s motivated next-generation and young researchers to become internationally active. The discussion will focus on what to do now and what knowledge, skills, and networks to acquire in order to contribute to the creation of new knowledge in education research, focusing on their own experiences and what they should do with their peers in the international education research communities.

The humanities and social sciences, including education research, have a long history in Japan. In addition, educationl research, in particular, has been deeply involved in the formation of Japan’s modern and contemporary education and citizenry, and has been formed through deep commitment in the advancement of research and networks in Japanese, the national language. This means that advanced Japanese language skills are required in various educational practices, including teacher training and the field of higher education, for example, while familiarity with Japanese education and research related to it is often recognized as a strength in the international scene.

On the other hand, in the Americas, Europe, and Oceania, where there is a diverse influx of international students from around the world and international mobility of students and researchers within and across regions is commonplace. In Asian and African countries where those who have studied abroad are leading the national communities of educaton research and practice, it is important to develop a strong international presence in these regions where English is the universal language. The common goal of education research is how to contribute to the creation of international knowledge and make an impact on the research community, and international competition and cooperation are conducted on a daily basis to achieve this goal.  It is difficult to contribute to international knowledge sololy by adopting and catching up with the world’s most advanced research outputs and methodologies, especially in Europe and the United States. On the other hand, educational practice is based on diverse languages and cultures, including Japanese, and education research is inherently characterized by the creation and development of new knowledge only through involvement in such practices and fields.

The creation of intrinsic knowledge, including path-dependent knowledge, is the source of the development of education research in Japan and around the world, and we are asking how the next generation of researchers can utilize this knowledge as their own source for opening up and sustain their careers, and how the JERA and other education-related academic societies can support them.

Chair: Akiyoshi Yonezawa (Tohoku Univesity), Yuto Kitamura (The University of Tokyo)

13:00-13:15  Opening Remark and Introduction

Akiyoshi Yonezawa (Tohoku University)

13:15-13:35 Developing a research career in the field of international education development

Takayo Ogisu (Sophia University)

13:35-13:55 Competing meanings of international experiences for early-career educational researchers

Yusuke Sakurai (Hiroshima University)

13:55-14:15 Networking early-career researchers in higher education research in East Asia

Jisun Jung (The University of Hong Kong)

14:15-14:35 Fostering Asian Eductional Leaders through university partnership

Jing Liu (Tohoku University)

14:35-14:50 (Break)

14:50-15:50 Panel Discussion

Discussants (10 minutes each)

Keita Takayama (Kyoto University)
Jeremy Breaden (Monash University)

15:50-16:00 Closing remarks

Yuto Kitamura (The University of Tokyo)

10.公開シンポジウム

(1)公開シンポジウムⅠ

学問研究の基盤としての知の創造と蓄積
―教育学研究のこれからを考える―

【登壇者】  三時眞貴子(広島大学)
      福田敦志(大阪教育大学)

【指定討論者】 隠岐さや香(東京大学)
       松村一志(成城大学)

【司 会】 杉田浩崇(広島大学)

 文字が記録の手段として登場して以降、人類は獲得した情報を記録し、蓄積することで知を生み出してきた。文字によって記録されうるものだけではなく、記憶や伝承や歌、手業など、さまざまな「知」が私たちの世界には存在している。ピーター・バークが整理したように、情報が生の状態であり、知識はそれを加工したものと捉えるとするならば、知識が生み出される時、そこには必ず人々の思想や理念だけではなく、ある種、癖ともいうべき思考の回路が埋め込まれている。古代の時代から長きにわたって、人々によって加工された知は、国家や地域の壁を超えてグローバルに伝搬されることで、人々の価値観やあり方を伝え続けてきた。
 私たちが「知」と触れる場面や期待する役割は多様であり、日常的な営みの中で生み出され、利用され、受け継がれる知もあれば、統治のため、あるいは経済活動を行うために、求められ、蓄積され、利用されてきた知もある。さらには、そうした知の中でも、特権的に限られた人々によって生み出される学問として理解され、書籍に綴られ、伝達されていくものも存在する。
 学問としての知もまた、例に漏れず、その生み出され方は多様で常に同じ価値基準でその重要性が判断されてきたわけでもない。一方で研究の場面では、用いられるデータや記録そのものの「正当性」に加えて、科学的根拠をもたらす手続き(加工)が必要とされる。我々研究者は日々、雑多な情報の中から研究に耐えうるもの、用いるにふさわしいものを見つけ出し、あるいは研究のためのデータや記録を作り上げながら、これに「正当性/根拠」を付与した上で、学問知として蓄積している。
 本シンポジウムでは、こうした学問知が生み出されるダイナミズムとこれが「正当性/根拠」を付与されながら蓄積されることの意味に注目し、学問研究の基盤としての知のあり方について考えたい。現在、日本のみならず、数値化したもので評価しようとする世界的な潮流の中で、とりわけ人文社会科学系、あるいは各学問の基礎系領域の学問としての知が挑戦を受けているといえよう。こうした時期に、即物的な社会的有用性からではなく、学問の基盤として知の有り様をじっくり議論してみることは、私たちの研究者としての立ち位置を今一度確認し、学問の展開を止めないためにも、重要なことなのではないかと考える。
 具体的には、次の二つの視点からの問題提起を行う。

  • 19世紀以降、教育学が学問として成立していく過程において、教育に関する知がどのような挑戦を受け、それに対抗するためにどのように組織化されていったのか
  • 教育に関する実践記録という非公式な記録を研究で用いるために何が必要とされるのか、さらにまたそこで得た知見を教育学の学問知として蓄積するためにどのような課題があるのか

 以上の二つの観点からの問題提起に対して、科学的証拠の歴史的変遷について論じる専門の研究者からコメントをしていただき、登壇者とコメンテ-タ-の応答を踏まえて、参加者全体で議論したい。

(2)公開シンポジウムⅡ 

教科教育のカリキュラムポリティクス

【登壇者】 川口広美(広島大学)
     佐藤貴弘(筑波大学) 
     西村圭一(東京学芸大学)

【指定討論者】 澤田 稔(上智大学)

【司 会】 草原和博(広島大学)
     中村和世(広島大学)
     永田忠道(広島大学)

 教科教育の研究はどこまで国家の権力作用に向き合ってきたのだろうか。
 教科教育の研究は、しばしば政治的に構築された教科・科目の枠組みを所与と見做したうえで、教育内容を具体化し、指導方略を構想する技術的な研究領域とみなされてきた。換言すると、政治性を欠いた研究領域という捉えである。本公開シンポジウムでは、このような批判に対峙し、教科教育研究の成果と新たな可能性を展望したい。
 具体的には、以下の2つの論点に整理できる。
 第1に、教科のカリキュラムが、誰の、何のために構築されてきたのか、という批判的カリキュラム研究の視角である。教科課程は、一定の権力作用の下で分割と統合を繰り返してきた。何をこそ教えて・何を教えないのか、何を包摂し・何を排除するのか、すなわち、教科課程における内容・時間の「再配分」と新たな内容・時間の要求に対する「承認」には、その時々の国家や市場のポリティクスが投影されている。すなわち、教科・科目の目標設定と内容編成に、どのようなステークホルダーの、いかなる権力作用が関与し、その結果どういう主体のどういう見方に正当性を付与し、逆にどのような権利や主張を剥奪してきたのか。そして、学校や社会の資金と人事にいかなるインパクトを与えてきたのか。これらの論点は教科の存立をめぐって看過しがたい問題群である。教科の研究者は、教科における政治力学の諸作用をあらためて批判的に検討しておく必要があるだろう。
 第2に、教科の研究者は上述のポリティクスにいかに向き合ってきたのか、というポジショニングに関する視角である。教科の研究者は、しばしば自己が専門とする教科・科目の存在を自明視し、その時間・単位の拡張を申し立てる傾向にある。しかし教科・科目の政治的意味について、またそのカリキュラムに内包されたポリティクスに対してどの程度「敏感」であったかについては、自己検証されて然るべきだろう。とくに、文化継承のために比較的安定した地位が付与されてきた国語や数学のような中核教科、社会的・政治的に創出され、社会的・政治的に翻弄されてきた社会科や家庭科のような教科、あるいは周縁化・周辺化されたと自嘲的に語られることのある音楽科や体育科では、ポリティクスへの向きあい方には差異が生じてきたことも予見される。社会に開かれた教育課程が要求され、カリキュラムがますます政治化していく中で、教科教育の研究者の実践に対するコミットのし方と立場性が、あらためて問われている。
 このように本シンポジウムでは、教科のカリキュラム編成に関する議論の基軸をポリティクスの視点から問い直したい。 

11.若手交流会

日時:8月28日(土)16:30~18:00
場所:対面およびオンライン(Zoom)のハイブリッド形式

今回の若手交流会の趣旨:

 新型コロナウイルスの感染拡大が抑止されていない中で、若手研究者相互のコミュニケーションの機会が大きく制約されている状況が続いており、ネットワークづくりの障壁となっている。このような状況を踏まえ、今回の若手交流会は、講演会+質疑応答形式ではなく、参加者相互のコミュニケーション機会を提供することに軸足を置く。具体的には、複数のグループでの意見交換(オンライン参加者はZoom のブレイクアウトルーム、オフライン参加者はface to faceでの意見交換)のための時間を多く確保する。
 グループ別のコミュニケーションを円滑かつ活発なものとするため、グループ別の意見交換に移行する前に、若手交流委員7名がそれぞれ、「若手研究者の一人であった頃の私or若手研究者の一人である私が直面した苦労・悩みとそれらを軽減してくれたこと」について、2分程度のスピーチを行う。
 意見交換のためのグループは下記「当日の進行予定」の通り設定するが、オンライン参加者のブレイクアウトルームは事前登録制とはせず、当日、各参加者の自由意思に基づいて選択するものとする。

当日の進行予定

総合司会:和井田副委員長

 16:30∼16:35  趣旨説明(藤田委員長)
 16:35∼16:50  ミニトーク「「若手研究者の一人として私が直面した苦労・悩みとそれらを軽減してくれたこと」(若手育成委員7名)
 16:50∼16:55 グループ選択と調整
 16:55∼17:50 グループごとの意見交換

  ①ブレイクアウトルーム1 
  ②ブレイクアウトルーム2 
    ※以下の「a」「b」「c」から「a+b、c」あるいは「a、b+c」のいずれかの2グループとする

a:修士課程・博士前期課程在籍中の大学院生として日頃感じている課題について語ろう(研究職以外の道も将来の選択肢の中にある、研究を始めて間もない…などの皆様も是非どうぞ。)
b:博士後期課程在籍中の大学院生として日頃感じている課題について語ろう
c:オーバードクター、テニュア未獲得の立場で日頃感じている課題について語ろう

  ③ブレイクアウトルーム3=COVID-19パンデミックによって生じた研究推進上の課題について語ろう(インタビュー調査、アクションリサーチ、参与観察等々の調査研究を主軸になさっている皆様はもちろん、今回のパンデミックで研究推進上の困難に直面した皆様は年齢・立場等にかかわらず是非どうぞ。)
  ④ブレイクアウトルーム4=世代や研究領域・方法を超えて日頃感じている課題について語ろう
  ⑤オフライン(face to face)=世代や研究領域・方法を超えて日頃感じている課題について語ろう

 17:50∼18:00 意見交換の振り返りと共有

※オフライン(face to face)参加ご予定の皆様へ
 オフライン参加の皆様のうち、「ブレイクアウトルーム1~3」いずれかへのご参加を希望される方は、ご自身のデバイス(ノート型パソコン、タブレット、スマートフォン)とヘッドセット(イヤホン・マイクの双方)をご持参ください。 若手交流会会場内あるいは会員控室等から、それぞれご希望の「ブレイクアウトルーム」にご参加いただけます。

12.懇親会

開催しません。