政府の教育勅語使用容認答弁に関する声明(2017年7月31日更新)

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政府は、第193回国会での本会議や委員会での審議や答弁書において、「教育ニ関スル勅語」(教育勅語)には普遍的な価値が含まれており、日本国憲法及び教育基本法等に反しないかぎり教材として使用できる旨の答弁を繰り返しました。そのなかには、朝礼での教育勅語の朗読や暗唱・唱和さえ一概には否定しない旨の答弁もありました。

  一連の政府答弁は、戦前・戦中において教育勅語が日本の教育と社会にもたらした負の歴史を無視し、戦後国会が教育勅語を排除・失効確認した事実をも軽んじるものです。私たちは教育学を研究する者として、また大学等で教壇に立つ者として、これを容認することはできません。

教育勅語は、戦前・戦中に君主たる天皇が「臣民」に対して国体史観に基づく道徳を押しつけ、天皇と国家のために命を投げ出すことを命じた文書です。天皇は現人神であり、日本は神国であるという観念の下、教育勅語は、誰もが抱く家族や同胞への愛情や世の中で役立つ人間になりたいという気持ちを絡め取りつつ、国民を排外主義的・軍国主義的愛国心に導くことに使われました。このため、教育勅語は国民主権・基本的人権尊重・平和主義を基本理念とする日本国憲法とはまったく相容れないものであり、今日では歴史的資料としてしか存在することが許されないものです。

日本国憲法公布前の1946年10月8日、旧文部省が教育勅語を唯一の理念(「淵源」)とする教育を否定する旨の通牒を発したため、一時は唯一の理念としないかぎり教育勅語に基づく教育も可能だとの理解がありました。そこで、日本国憲法施行後の1948年6月19日、衆議院の教育勅語排除決議及び参議院の失効確認決議により、国会は国権の最高機関として学校教育から教育勅語を完全に排除するとの意思を示しました。文部省はこれらを受けて、同年6月25日、1946年通牒による教育勅語の取扱いを変更し、戦前・戦中に学校に配られた教育勅語をすべて返還するよう通知しました。このようにして、教育勅語は70年も前に、日本国憲法及び教育基本法に反するものとして学校教育から完全に排除されたのです。

したがって、教育勅語は、戦前・戦中における教育と社会の問題点を考えるための歴史的資料として批判的にしか使用できないものであり、普遍的価値を含むものとして教育勅語を肯定的に扱う余地はまったくありません。

ところが、政府は、教育勅語を教育の唯一の理念とすることは否定されたとしつつも、教育勅語には普遍的な価値が含まれており、日本国憲法及び教育基本法に反しないかぎり肯定的に扱うことも容認される旨の答弁を繰り返しました。その一方、どういう使い方が日本国憲法に反するのかとの質疑には答弁を忌避し、学校・設置者・所轄庁の判断に委ねるとの答弁に終始しました。これは国会軽視であるだけでなく、戦前・戦中のような教育勅語の使用を容認または助長しかねないものです。

 私たちは政府に対して、第193回国会における教育勅語の使用容認答弁を撤回し、戦前・戦中における教育と社会の問題点を批判的に考えるための歴史的資料として用いる場合を除き、教育勅語の使用禁止をあらためて確認するよう求めます。また、教師、学校、教育委員会には、第193回国会における政府の教育勅語使用容認答弁に惑わされることなく、普遍的価値を含むものとして教育勅語を肯定的に扱う余地はまったくないことをご理解いただくよう求めます。

  2017年6月16日

日本教育学会会長 広田照幸
関東教育学会会長 関川悦雄
教育史学会代表理事 米田俊彦
教育目標・評価学会代表理事 木村元・鋒山泰弘
子どもと自然学会会長 生源寺孝浩
大学評価学会代表理事 植田健男・重本直利
中部教育学会会長 吉川卓治
日本音楽教育学会会長 小川容子
日本学習社会学会会長 佐藤晴雄
日本家庭科教育学会会長 伊藤葉子
日本キリスト教教育学会会長 町田健一
日本社会教育学会会長 長澤成次
日本生活指導学会代表理事(教育学)折出健二
日本体育学会会長 深代千之
日本美術教育学会会長 神林恒道
日本福祉教育・ボランティア学習学会会長 原田正樹
幼児教育史学会会長 太田素子

(6月16日追加分)
日本教育制度学会会長 清水一彦

(6月18日追加分)
日本教師教育学会会長(理事長)三石初雄

(6月23日追加分)
日本カリキュラム学会代表理事 長尾彰夫

(7月4日追加分)
日本環境教育学会会長 諏訪哲郎

(7月10日追加分)
日本体育科教育学会会長 岡出美則

(7月12日追加分)
日本地理教育学会会長 竹内裕一

(7月14日追加分)
日本学校保健学会理事長 衛藤隆

(7月26日追加分)
北海道教育学会会長 姉崎洋一

(7月31日追加分)
日本教育方法学会代表理事 深澤広明